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金沢地方裁判所七尾支部 事件番号不詳 判決

主文

一  原告幾老与之雄の本件訴えを却下する。

二  原告幾老与之雄を除くその余の原告らと被告との間において、櫻井政臣が被告の代表役員でないことを確認する。

三  被告は、櫻井政臣が昭和五八年七月二〇日被告代表役員に就任した旨の金沢地方法務局七尾支局昭和五八年七月二二日付登記の抹消登記手続をせよ。

四  訴訟費用は、原告幾老与之雄と被告との間においては、被告に生じた費用の三三分の一を原告幾老与之雄の負担とし、その余は各自の負担とし、原告幾老与之雄を除くその余の原告らと被告との間においては、全部被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  櫻井政臣が被告の代表役員でないことを確認する。

2  主文第三項同旨

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告神社は、通称「気多本宮」と呼ばれ孝元天皇の時代に創建されたともいわれているが、宗教法人法に基づき昭和二八年六月三日設立登記された、神社本庁を包括宗教団体とする神社である。

2  被告神社には、その機関として総代、総代会、責任役員、役員会及び代表役員が置かれている。右の各機関の任務、選任手続などは次のとおりである。

(一) 総代は、氏子又は崇敬者で徳望の篤い者のうちから役員会で定めた方法により選任され、その任期は三年間である(被告神社規則一六条。以下において被告神社規則は単に「規則」という。)。

なお、氏子又は崇敬者とは、被告神社を崇敬し被告神社の維持について義務を負う者をいう(規則三七条)。

(二) 総代は、総代会を組織し、被告神社の運営について役員を助け宮司に協力する任務を有し、総代会は宮司が招集する(規則一五条)。

(三) 被告神社には責任役員二一名が置かれ、責任役員は、役員会を組織し、宗教上の機能に関する事項を除くほか被告神社の維持運営に関する事務を決定する任務を有する(規則七条、八条)。役員会は代表役員が招集する(規則八条)。代表役員以外の責任役員は、氏子又は崇敬者で神社の運営に適当と認められる者のうちから総代会で選考して代表役員が委嘱し、その任期は三年間である(規則一〇条)。責任役員の進退は神社本庁統理に報告しなければならない(規則一三条)。

(四) 責任役員のうち一人を代表役員とし(規則七条)、代表役員は被告神社の宮司をもってあて(規則九条)、宮司の進退は責任役員の具申により神社本庁統理が行う(規則二〇条)。

代表役員は、被告神社を代表し、その事務を総理する(規則八条)。

3  原告らは、いずれも被告神社の氏子であり、昭和五八年七月当時の地位は別表一記載のとおりであって、いずれも被告神社の総代たる地位にあった。

4  被告神社は、訴外櫻井政臣(以下「訴外政臣」という。)が昭和五八年七月二〇日神社本庁統理によって宮司に任命されたとして、訴外政臣が被告神社の代表役員であると主張し、また、被告神社に関し金沢地方法務局七尾支局昭和五八年七月二二日付で訴外政臣が同月二〇日に代表役員に就任した旨の登記がなされている。

5  しかし、訴外政臣は被告神社の代表役員ではない。

6  よって、原告らは、訴外政臣が被告神社の代表役員ではないことの確認を求め、かつ、被告神社に対し前記登記の抹消登記手続をなすことを求める。

二  被告神社の本案前の主張

1  被告適格

被告神社における代表役員は、神社本庁統理によって任命された宮司が当然その地位に就くのであり、代表役員の就任登記に際しても、神社本庁の宮司就任承認書を添付して申請しなければならない。したがって、神社本庁統理による宮司任命行為が存在する以上、右任命行為をそのままにして、その前提である責任役員の資格及び責任役員による具申手続を問題にし代表役員の資格欠缺の確認や代表役員就任登記の抹消登記手続を求める訴えは不適法である。

よって、本来の訴訟は神社本庁を被告として、その宮司任命行為の効力を争うべきであり、被告神社には被告適格が存しない。

2  原告適格

(一) 神社本庁憲章一五条には、氏子区域に居住する者を伝統的に氏子としその他の信奉者を宗教者とする旨規定されている。本件における原告のうち、幾老与之雄、直江末義、上野清栄、藤井鉦一はそれぞれ松本町、富岡町及び栄町の町会長であるが、これら町会は被告神社の氏子区域ではない。したがって、右原告四名は氏子でもなく原告適格を有しない。

(二) 本件訴訟においては、責任役員が訴外政臣に関する宮司具申行為後になした行為の効力又はその前提となる責任役員の選任手続の効力が争点となっているが、前者は責任役員のみの問題であるから、原告たりうるのは責任役員のみであり、また、後者の問題において原告たりうるのは当該責任役員あるいは責任役員を選任する総代である。

原告らは、被告神社との関係における原告らの地位は別表一記載のとおりであると主張するが、別表一において総代として表示されているのは、坪井外、池田清勝、岩間毅ら一〇名にすぎず、他の者は町会長として表示されている。しかし、町会長は、当然に総代になるものではない。被告神社は、役員会と合同した総代会の開催に際し、町会長にも招集通知を出していたものであるが、これは総代の一存では祭礼の際の拠出金を町会費から支出することを決定できないことから、町会長を総代の補佐又は相談役として出席させるため便宜上通知を出していたにすぎず、町会長が総代会に出席していたからといって総代たる地位を有するに至るものでない。

(三) 規則及び宗教法人法には、氏子や総代が被告神社の業務執行の是正や機関の責任追及をなしうるとの規定はなく、宗教法人の管理運営は代表役員、責任役員などの機関に委ねられている。したがって、単なる氏子及び総代には法的に神社の業務執行の是正や機関の責任追及をなしうる地位がないことからも、原告適格が存しない。

三  被告神社の本案前の主張に対する原告らの答弁

1  被告適格

神社本庁に対する判決が認容されても、その効力は被告神社に及ばない。したがって、被告適格を有するのは被告神社そのものである。右は、最高裁判所昭和四四年七月一〇日判決(民集二三巻八号一四二三頁)の認めるところである。

2  原告適格

(一) 松本町、富岡町及び栄町は、いずれも被告神社の氏子区域である。富岡町については、御由緒略記に氏子区域として明確に記載されている。栄町は、新興住宅地域であり藤橋町の飛地などになっているところから、当然氏子区域に含まれる。かつて責任役員として届出がなされていた山内義継及び被告神社が責任役員と主張する瓦辰二の住所地は栄町であり、被告神社が栄町は氏子区域ではないと主張することは自己矛盾である。松本町も、富岡町、魚町及び一本杉町に囲まれているのであり、他の氏子区域と区別すべき地理的理由はなく、また、被告神社に対し財政的支出を行ってきている。

(二) 被告神社は、御由緒略記に記載されているとおり七尾地区の種々の祭事を営んできているが、右祭事には多額の経費と人員を必要とする。右経費は古くから各町会に割り当てられ、人員についても各町会によって確保されてきている。

したがって、各町会の物的・人的参加なくして被告神社の運営は不可能であり、町会長は各町会を代表するものとして被告神社の運営に参画してきたのであって、単なる総代の補佐又は相談役としての地位にとどまらない。各町会に対し被告神社の財政的負担を課している以上、運営に関する権限をも認めるのが当然である。

また、規則一四条は、総代の定数は宮司が定めると規定しているところ、宮司は従来、右規定に基づき総代とともに町会長を総代会に招集し、総代会における町会長の発言権及び議決権を認めてきた。したがって、慣習上、町会長も総代として扱われてきているのである。

(三) 本件訴訟は被告神社における機関の選任という組織の根本に関する事案であるが、そもそも氏子は神社の人的構成要素であって、代表役員が誰であるかにつき直接的な利害関係を有しているのであるから、当然氏子には原告適格が認められなければならない。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3のうち、原告幾老与之雄、同上野清栄、同直江末義、同藤井鉦一の四名が被告神社の氏子であることは否認し、右四名以外の原告らがいずれも被告神社の氏子であることは認め、原告坪井外、同池田清勝、同岩間毅、同大成正康、同木口作松、同近藤美津枝、同白石栄吉、同清水曽登雄、同鈴森角太郎、同中西松次、同水野等、同山岸和男の一二名が昭和五八年七月当時いずれも被告神社の総代であったことは認め、右一二名以外の原告らが右の当時被告神社の総代であったことは否認する。

4  同4は認める。

5  同5は争う。

五  抗弁

1  訴外政臣の被告神社宮司及び代表役員への就任は、次のとおり、適法な手続によって有効になされたものである。

(一) 訴外櫻井止郎(以下「訴外止郎」という。)は昭和二八年六月、被告神社の宮司及び代表役員に就任した。

(二) 訴外止郎は昭和五八年二月二〇日ころ、総代及び町会長に対し総代会の招集を通知したうえで、同月二四日、被告神社社務所において総代会を開催した(以下、この総代会を「本件総代会」という。)。なお、町会長に対する総代会招集通知は慣例により行ってきたものであり、町会長はオブザーバーとして総代会に出席するものである。

本件総代会は役員会と合同して開催されたものであるが、出席者は、訴外止郎、同政臣、同櫻井定毅、同櫻井伸一及び総代の原告大成正康、同坪井外、総代兼責任役員の原告木口作松、同岩間毅、同白石栄吉、訴外堂谷内喜作、同大岡真治、同島松才一、責任役員の訴外林松雄、同木下幸吉であった。

出席した総代である原告坪井外、同岩間毅、同大成正康、同木口作松、同白石栄吉及び訴外堂谷内喜作、同大岡真治、同島松才一は、本件総代会において、同年六月をもって任期満了となる責任役員の後任者の選考につき、従来の慣例のとおり当時の宮司及び代表役員であった訴外止郎に選考を一任する旨決議した。

右決議の経緯及び出席者の発言内容は、次のとおりである。

(1) 原告坪井外の発言

「今までの責任役員は誰と誰がなっているか。」

(2) 訴外止郎の発言

「六月で任期満了になるので責任役員の選考をどうしますか。」

(3) 訴外林松雄の発言

「今までどおり宮司に一任してはどうか。」

(4) 訴外林松雄の右発言に対し異議を述べる者がなかったので、訴外止郎は、「異議がないようですが、従来どおり私に一任させていただきます。」と発言して、本案件を議決た。

(三) 訴外止郎は昭和五八年六月、右総代会決議に基づき、同月任期が満了した責任役員のうち、

(1) 原告大成正康、同鈴森角太郎、同池田清勝、同谷屋与四雄、同中西松次、取下前原告原靖、同且斎、訴外佐野清一郎、同止郎の九名については再任せず

(2) 原告白井竹信、訴外瓦辰二、同沢野由雄、同曽場栄松、同本藤豊吉、同田代藤吉、同富田外与雄、同櫻井伸一、同櫻井きん子の九名を新たに責任役員に就任させ

(3) 原告木口作松、同岩間毅、同白石栄吉、訴外高村和男、同吉村義一、同林松雄、同斉藤甚吉、同堂谷内喜作、同大岡真治、同島松才一、同木下幸吉、同政臣の一二名を責任役員に重任とし、

その旨石川県神社庁に届け出た。

(四) 新たに責任役員に就任した前記九名及び重任した前記一二名は、昭和五八年六月二九日ころ、訴外政臣を被告神社の宮司に任命されたい旨の具申(以下「本件宮司具申」という。)を石川県神社庁に対して行った。

(五) 神社本庁統理は、具申に基づいて、同年七月二〇日訴外政臣を宮司に任命した。

2  なお、仮に本件総代会における訴外止郎に責任役員の後任者の選考を一任する旨の決議につき、その存否又は効力が問題になるとしても、責任役員は規則一〇条により、後任者が就任するときまでなお在任するのであるから、新任の責任役員による本件宮司具申が問題になっても、再任されなかった旧責任役員のうち八名だけが本件宮司具申にかかる具申書に署名・押印せず、賛成しなかったということにすぎず、旧責任役員のうち過半数以上の一四名が賛成している。したがって、本件宮司具申の効力に影響はなく、有効である。

3  仮に、本件宮司具申が無効であったとしても、昭和五八年九月三〇日に開催された役員会は、本件宮司具申を追認した。

4  原告ら大多数の町会長らは、被告神社における祭礼の拠出金を町会の費用から出しているということのみで、町会長即総代であるが如き感覚・意識をもって、昭和五二年一〇月及び昭和五八年八月、規則を無視して責任役員でもない町会長によって訴外櫻井定毅を宮司にせんがための具申をなしたり、本件の際の訴外櫻井定毅の具申に際し、原告らのうち一部の代表格の者と訴外櫻井定毅が石川県神社庁七尾鹿島支部長大畠義成に対し押印を強要したり、更に、昭和五九年元旦には実力をもって賽銭・祈願料を横領するが如き不法な行為をなし、金毘羅宮の祭礼を妨害するなどの実力行使をした。

このように規則を無視し、かつ、不法行為を行っている原告らが、被告神社の責任役員選任手続や本件宮司具申の手続について規則に反すると主張することは、禁反言の法理からも許されず、権利の濫用である。

六  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)は認める。

2  同1(二)のうち、訴外止郎が総代及び町会長に対し総代会の招集を通知したうえで、昭和五八年二月二四日、被告神社社務所において本件総代会を開催したことは認め、その余の事実は否認する。

本件総代会において、責任役員選考に関する議題が決議されたことはなく、右議題が提議されたこともない。

かって被告神社においては、責任役員の選任は総代会の選考を経ずに代表役員がその一存で適当に委嘱していたようである。しかし、昭和五二年に訴外止郎がその子である訴外政臣を宮司にしようと画策した事件が発生して以来、氏子及び総代は責任役員の重要性を次第に認識するようになってきた。被告神社の組織、運営、経理などの在り方につき改革の気運が次第に高まり、昭和五八年一月には町会長から被告神社に対し、被告神社の維持・運営方法の見直しを求め責任役員の氏名の公表などを要望する「要望書」が提出された。そして、本件総代会においては、総代であった原告坪井外が責任役員の選任方法につき、規則を示しながら正規の選任を求めるに至った。本件総代会は、被告神社の会計や責任役員の選任方法などをめぐって議事が紛糾し収拾がつかなくなったが、訴外止郎が後日改めて総会を開き総代の多くが指摘した諸問題を審議することを約束したので、とりあえず期日が迫っていた春の曳山奉幣祭の件だけにつき決議をして解散した。右のような本件総代会の状況において、責任役員の選任につき宮司一任などというまさに批判の的になるべき内容の決議がなされるはずがないのである。

3  同1(三)のうち、昭和五八年六月、(1)記載の九名中訴外止郎を除く八名につき責任役員の退任手続がなされ、(2)記載の九名につき新たに責任役員としての届出がなされ、(3)記載の一二名中訴外政臣を除く一一名につき重ねて責任役員としての届出がなされたことは認め、その余の事実は否認する。

4  同1(四)は否認する。

5  同1(五)は認める。

6  同2は争う。

7  同3は争う。

役員会が昭和五八年九月三〇日に開催されたとしても、そこで責任役員とされている者は、やはり総代会の選考を経ておらず責任役員たりえないのであるから、追認の効力は発生しない。

8  同4は争う。

七  再抗弁

1  原告岩間毅、同木口作松、同白石栄吉、同白井竹信、訴外木下幸吉、同大岡真治、同島松才一、同斉藤甚吉、同吉村義一、同高村利男、同本藤豊吉は昭和五八年八月、神社本庁に対し、本件宮司具申における具申書への署名・押印を撤回する旨届け出た。

2  神社本庁統理は、本件宮司具申が責任役員による適式の具申であり訴外政臣が正当な承継者であると誤信して訴外政臣を宮司に任命したのであるから、任命行為の要素に錯誤が存在し無効である。

八  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1は否認する。

2  同2は争う。

第三  証拠(省略)

(別表一、二省略)

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